今後の日本において、多くの企業の経営者が高齢となります。
会社の承継問題の問題は顕在化しており、今後、深刻化することも予測されます。
そこで注目されているのが、事業承継信託という制度。
本記事では、そもそも事業承継信託とは何なのか、概要を踏まえた上で、メリットや注意点について解説します。
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事業承継信託とは?
事業承継信託とは、経営者が自身の事業の株式や不動産等を信託財産として信託契約を締結し、将来的に事業を継承する後継者に有利な形で引き継がせることを目的とした信託制度です。
経営者が死亡や障害等で突然引退した場合でも、事業継続が可能。
遺産相続に伴うトラブルや税務上の問題を回避しやすいのが大きな特徴なのです。
尚、事業承継信託には主に次の3つの種類があります。
1. 遺言代用(型)信託
遺言代用信託とは、自身が死亡した際に、信託に財産を移し、その財産を受益者に引き継がせる方法です。
一般的な遺言と異なり、遺言書による手続きが不要となります。
また、財産移転の手続きが迅速に行われるのも魅力。
相続税の納付期限内に手続きを完了させることが可能なため、相続税の節税にも有用です。
2. 他益信託
他益信託とは、信託の受益者が委任者以外の第三者となる信託のことを指します。
この信託により、財産権を後継者に譲渡可能になります。
よって、後継者に対して安心感を与えることができます。
3. 後継ぎ遺贈型受寄者連続信託
後継者の万一の事態に備え、予め指定された者に順次受益権を承継できる信託を、後継ぎ遺贈型受益者連続信託といいます。
経営者が亡くなったら、財産を、まずは長男に、次に次男に、という順番を予め決めることができます。
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事業承継信託のメリット
会社の承継問題を解決する一つの方法である、事業承継信託。
これを利用することで次のようなメリットがあります。
1. 節税になる
事業承継信託によって、事業の株式を信託財産として信託に移転することで、相続税の課税対象財産を減らせます。
また、信託によって株式を移転すれば、贈与税の課税対象財産も減らすことが可能。
税負担が少なくなるでしょう。
2. 経営の空白期間が生まれない
現経営者が亡くなっても、事業承継信託の場合、受益権と議決権がすぐに後継者に引き継がれます。
そのため、後継者がすぐに経営を担うことが出来るでしょう。
必要な機関決定も迅速に行うことができます。
一方、相続の場合は遺産分割の手続きに時間と手間がかかります。
その間に経営に支障が生じる可能性もあるでしょう。
このように、事業承継信託を活用することで、会社が安定した経営を維持できるという利点があります。
3. 現経営者の意思が反映されやすい
事業承継信託では、経営者自身が事業承継に関する細かな条件を柔軟に設定できます。
そのため、相続など他の事業承継のと比べて、経営者の意思が反映されやすいという魅力もあります。
自分の亡き後、会社が滅茶苦茶になるのを防ぐことができます。
従業員たちや取引先を守ることが出来るでしょう。
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事業承継信託のデメリットや注意点
事業承継信託を利用する際には次のようなデメリットや注意点があります。
1. 十分に認知されていない
事業承継信託は、事業承継における画期的な施策の一つであることは確か。
しかし、実は世間一般的にあまり認知されていないという実情があります。
会社を承継するのは一人ですが、事業承継には会社の幹部や従業員、株主、そして親族など多くの人間が関わることになります。
当然、会社の規模が大きければそれだけ多くの人間が関わることになるでしょう。
円滑に事業承継を進めるためにも、まずは周囲の理解を得ることが事業承継信託の利用にあたって重要となります。
2. 現役引退による事業承継では使えない
事業承継信託は、原則として、経営者が死亡した場合の事業承継を想定した制度。
そのため、現役引退という形で事業承継がなされる場合には活用できません。
この点をしっかり理解した上で事業承継の準備を整える必要があります。
そうでないと、いざという時に混乱や問題が生じかねません。
3. 遺留分減殺請求に関する方針が曖昧な場合がある
遺留分減殺請求とは、遺産分割において、相続人の中で、特定の相続人に対して、その相続人が受け取る遺留分を減らすことを請求することです。
事業承継信託では、この遺留分減殺請求の扱いに関する方針が曖昧なことがあります。
それが原因でトラブルが生じることもあるため注意が必要です。
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事業承継信託を選択肢として持っておく
事業承継信託は、非常に便利な仕組み。
これを利用することで、事業承継や後継者問題に関する様々な問題を回避できます。
しかし、契約を結んだり内容を取り決めたりするためは複雑な手続きと専門的な知識が必須。
実行する際は、士業等の専門家に相談するのが良いでしょう。