まもなく始まるインボイス制度。
個人事業主やフリーランスの方に悪影響を及ぼす制度として巷で騒がれています。
しかし、果たしてそれは本当なのでしょうか。
ここでは、インボイス制度とはどんな制度なのか、概要を踏まえた上で、制度施行後の具体的な影響について考えていきましょう。
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インボイス制度の前に「仕入税額控除」を理解
インボイス制度を理解するためには、事業間の取引における「仕入税額控除」と呼ばれる制度を、まず押さえておく必要があります。
少し遠回りに思えるかもしれませんが、お付き合いください。
例えば、A社、B社、C社の間で以下のような取引があったと想定します。
- A社がB社に、商品D(10万円相当+消費税10%)を発注
- B社は商品Dを作るためのパーツ(6万円相当+消費税10%)をC社から購入
B社は、A社に商品Dを納品した後、消費税を含めた経費などをA社に請求することになります。
しかし、B社はパーツをC社から購入する際に、すでに消費税を支払っているため、このままだとこの取引において消費税が重複して徴税されてしまいます。
それを防ぐための制度が、「仕入税額控除」です。
A社から支払われた消費税1万円から、パーツ購入時にC社に支払った消費税6千円を差し引いた4千円を、消費税としてB社は税務署に納付することになります。
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インボイス制度とは
インボイス制度とは、2019年からの軽減税率制度の開始に伴い、事業者間の取引における消費税の額を「インボイス」=「適格請求書」の発行によって正確に把握し、不正やミスを防ぐことを目的とした制度です。
2023年の10月から本格的に始まる予定です。
税務署で所定の登録を済ませた課税事業者(前々期の課税売上が1000万円超)が対象。
免税事業者(前々期の課税売上が1000万円以下)は、原則として対象外となります。
これまでは、事業者間で取引をする場合、一方からの請求書などがあれば、他方の事業者は仕入税額控除が適用されていました。
しかし、インボイス制度開始後は、適格請求書の発行、保存が必須となります。
個人事業主、フリーランスへの影響
インボイス制度は、課税事業者にとっては取引の健全化を図れる大変有意義な制度です。
しかし、実際のところ、免税事業者の個人事業主やフリーランスの方にとってはあまり嬉しくない制度になっています。
というのも、インボイス制度の開始によって、
- 取引先からの受注が減る・契約を切られる
- 益税を享受できなくなる
など、事業の存続にも関わる大きなリスクが発生する可能性があるためです。
具体的に見ていきましょう。
1. 取引先からの受注が減る・契約を切られる
「インボイス制度で、なぜ?」
「そんなに大きなことなの?」
と思われる方もいるかもしれません。
このように予測されている背景としては、免税事業者が課税事業者と取引する際、適格請求書の発行ができないため、ということがあります。
そのため、取引相手の課税事業者は仕入税額控除が受けられなくなってしまいます。
仕入税額控除が受けられないということは、税務署に納める消費税の負担が増えてしまうことを意味します。
つまり、事実上、損をしてしまうことになるのです。
同じ内容の取引を外部に依頼するのであれば、取引において損をしない課税事業者が優先的に選ばれるようになるでしょう。
そのため、免税事業者には仕事の依頼が来なくなったり、取引をしてもらえなくなったりしてしまうリスクがあるのです。
2. 益税を享受できなくなる
これを理解するには、「益税」とは何かを理解しておく必要があります。
「益税」とは、「税金として受け取っておきながら、それを納付せず、自分の利益にしてしまうこと」を指します。
ある意味、脱法的な、しかし、黙認されてきたことでもあります。
インボイス制度によって、これが出来なくなってしまいます。
つまり、
「今までは、脱法的な利益を認めてきたけど、もうそれやめるからね」
ということです。
インボイス制度に反対している人たちの一番の理由は、ここだと言われています。
インボイス制度の影響を受けない人はいる?
インボイス制度の施行によって、免税事業者が不利な立場に立たされることは明白です。
しかし、
- 美容師など対消費者向けの商いをしている事業者
- 前々期の課税売上が5000万円以下の中小事業者(簡易課税事業者と呼ばれる)
と取引をしている事業者は、インボイス制度の影響をほとんど受けないと言われています。
インボイス制度を乗り切ろう
インボイス制度によって、脱法的な利益は得られなくなりました。
その一方で、取引先からの受注減や契約終了を少しでも減らしたい、不安を取り除きたい免税事業者の方は、事前に税務署にて所定の手続きをすることで、課税事業者になることも可能です。
現在、免税事業者の個人事業主やフリーランスの方は、
- 免税事業者としてのメリットを優先し現状維持する
- リスクに備え課税事業者に切り替える
のどちらかとなるでしょう。
じっくり検討したいところです。