人不足と言われ、一方で、様々な働き方が当たり前になりつつある昨今。
終身雇用が最早幻想とも言える世の中において、社員は、
「なぜここで働くのか」
「何のために働くのか」
「将来自分はどうなりたいのか」
といったことについて、より深く考えるようになっています。
そのような中、社員に定着してもらい、安定的に高いパフォーマンスを発揮してもらうために、「エンプロイージャーニーマップ」を導入する企業が増えて言います。
何やら長たらしい名称ですが、ここでは、エンプロイージャーニーマップの概要や、作成の手順について解説します。
エンプロイージャーニーマップとは?
エンプロージャーニーマップとは、社員が入社してから退職するまでに経験、体験する出来事を一連のマップとして可視化したものです。
エンプロイー(employee)とは、社員、ジャーニー(journey)とは、旅、マップ(map)とは地図を意味します。
社員が経験する出来事は、エンプロイーエクスペリエンス(experience = 経験) と呼ばれ、入社直後の研修から教育、オンボーディングにはじまり、現場での業務、異動や昇進、退職に至る一連のフェーズが含まれます。
従来、企業は社員の入退社の「管理」を重視していました。
しかし、人不足が叫ばれる昨今。
起業は社員の視点にも立ち、いかに良い経験や体験を提供できるか、そしてエンプロイーエクスペリエンスをどう向上させるかが大きな課題になると言えるでしょう。
それを実現するための一つの取り組みとして、エンプロイージャーニーマップが注目されているのです。
エンプロイージャーニーマップ作成のメリット
エンプロイーエクスペリエンスの向上、社員にとって快適な職場づくりに関する施策や取り組みは無限にあります。
全てのニーズを拾い上げ、対応することに成功している会社はまず存在しないでしょう。
しかし、エンプロイージャーニーマップを作成することで、より多くの社員のニーズに効果的に対応でき、抜け漏れのない施策の実現や、それぞれの施策に一貫性を持たせることができます。
マップの作成手順
それでは、実際のマップ作成手順について詳しく見ていきましょう。
①社員へのヒアリング、意識調査
まずは社員へのヒアリングや意識調査を実施し、既存の制度に対してどのような意見や考えを持っているのか、どのような評価をしているのかについて、声を拾ってみます。
実施する際には、部署や勤続年数、性別、役職、年代等の属性を集めておくことで、改善点や課題が見つけやすくなるでしょう。
同じ会社で働いていても、部署や入社時期によって会社に対する見方が大きく違うということは、よくあること。
属性に応じて分析をしてみることで、実施する施策に対する見え方も変わってくるでしょう。
②ペルソナの設定
次に、意識調査の結果を元にペルソナを設定していきます。
「ペルソナの設定」は、本来はマーケティングにおいて、理想のユーザー像を構想する際に用いられる作業です。
【参考】ペルソナ分析とは?現代のマーケターには必要不可欠のスキル
これを、エンプロイージャーニーマップの実施過程においてにも応用することが可能です。
①で行った調査結果を分析して、ターゲットとなる既存社員や、新入社員が抱える課題や感情、行動パターンを細分化します。
そこに年齢や性別、ライフスタイルや家族構成などの要素を詳細に盛り込むことで、より現実味のある社員像を作っていきます。
ペルソナの設定に当たっては、形式的には「理想の社員」ということになるのだろうと思いますが、あまりに理想的過ぎると、現実から乖離してしまう可能性もあります。
あまり理想に寄せ過ぎず、現実感のある落としどころを見つけましょう。
③フェーズの設置、作成
ペルソナの設定ができたら、フェーズを設置し実際にマップを作成していきます。
フェーズとは、冒頭で挙げたエンプロイーエクスペリエンスを指し、入社、研修、配属、育成、業務、そして転職・退職などの各ステップが含まれます。
個々の企業の状況に応じて、フェーズを設定していきましょう。
また、入社から退社という長期間ではなく、1日、1ヶ月、半年、1年のように短中期的に設定する場合もあります。
フェーズの設置ができたら、各段階において社員に起きうる問題や課題、感じるであろうこと、企業側に求めることなどを想定し、それらを細かく言語化していきます。
この言語化が、抽象的なものにならないようにするのが重要です。
④エンプロイーエクスペリエンス向上のプランを練る
マップの作成はあくまでエンプロイーエクスペリエンス向上のための過程に過ぎません。
マップを作成し浮かび上がってきた課題やペルソナのニーズに対応し、エンプロイーエクスペリエンス向上が期待できる具体的なプランを考えていきます。
もちろん、ニーズは何でも満たせばよいと言うものではありません。
企業のビジョンや利益に合致するよう、組織の強化に繋がるようなプランを練るようにしましょう。
マップ作成時のポイントや注意点
それでは、エンプロイージャーニーマップの効果を最大限に発揮させるためのポイントや注意点について見ていきましょう。
①社員の立場に立つ
マップを作成し、施策を構想していく際にはあくまで社員の立場に立って考えることが大前提となります。
生産性の向上、収益アップなど結果的に企業にとってのメリットにつながるケースもありますが、「自分が社員だったらこんな仕組みが欲しい」「このような環境を整えてもらいたい」というように、社員の立場に立って想像を膨らませます。
②今後の課題、目標、組織の展望を明確にする
エンプロイージャーニーマップを作成する前の段階において、まずは自社のビジネスモデルを考慮した上で具体的な課題や目標、組織の展望を明確にしておきましょう。
例えば、
- 社員の離職が多いから定着率を上げたい
- 社員の即戦力化を効率的に実施したい
といったように、課題や目標を明確にすることで施策の構想を練りやすくなります。
③社内への周知、共有
多くの時間を手間を費やしマップの作成、施策の制定をしても、具体的にどのようなメリットがあるのか、どのような意義があるのかを社員が理解できていないと意味がありません。
この施策を導入することで、働き方やキャリア形成にどのような変化が出るのか、その中身について社内へ周知し、社員と理解を共有します。
まとめ
転職が活発化し、離職率が増加傾向にある昨今において、人材を維持するための施策としてもエンプロイージャーニーマップの作成は有効な取り組みの一つです。
既存の社員、新入社員が快適に働ける環境づくりはもちろんのこと、会社にとっても、採用や教育にかかるコストが減る、企業イメージが良くなる、人が集まりやすくなる、パフォーマンスが上がるなどのメリットがあるため、積極的に実践していきましょう。